タイに進出して、1年目からすぐに利益を出せる会社は、決して多くありません。
多くの会社では、市場の開拓、サプライヤーとの信頼構築、社内体制の整備、従業員の育成などに時間を要し、黒字化までに数年かかることも珍しくありません。
しかし、利益が出ていない期間であっても、オフィスや工場の家賃、従業員の給与、その他の固定費は必ず発生します。そのため、設立初期や事業拡大期には、資金繰りの問題が発生することがあります。
このような場合、資金調達の方法として考えられるのが、主に「借入」または「増資」です。
増資を行う場合は、株主総会や増資登記などの手続きが必要となります。一方、借入は、増資に比べると手続きの負担が比較的小さいため、まずは借入を検討する会社も多いのではないでしょうか。
タイ現地の金融機関から借入を行うことも不可能ではありません。しかし、設立間もない会社や赤字の会社、担保がない会社の場合、信用面の問題から、利率を含めて良い条件で借入を行うことは簡単ではありません。
そのため、多くの場合は、日本の親会社から「親子ローン」という形で資金を調達することになります。
親子間の取引であるため、「契約書までは必要ないのでは」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、親子ローン契約書は、監査や税務調査の際に提出を求められる可能性が高い書類です。
また、タイの銀行口座に借入金が入金された場合でも、契約書がないことで、銀行側で資金のリリースが保留されることがあります。これは、マネーロンダリング防止の観点から、資金の内容確認が厳しくなっているためです。
契約書は弁護士事務所などに依頼して作成するのが安心ですが、内容によっては数万バーツの費用がかかることもあります。
そのため、自社で作成する場合には、少なくとも以下の点を確認しておく必要があります。
1. 借入額
まず確認すべきなのは、いくら借りるのかという点です。
あわせて、借入の通貨も明確にしておく必要があります。
バーツ建てなのか、日本円建てなのか、またはその他の外貨建てなのかによって、会計上の処理に影響が出ます。
外貨建ての場合、期末時点の残高について、為替レートによる評価替えが必要となります。
ローン開始時と期末時点の為替レートの差は、為替差損益として損益計算書に反映されます。
為替差益が発生した場合は、法人税の課税対象となります。
つまり、実際には資金を借りただけであっても、為替の影響により税金が発生する可能性があります。
一方で、為替差損が発生した場合には、損益計算書上の利益を大きく圧迫することもあります。
外貨建てで親子ローンを行う場合は、資金調達だけでなく、為替差損益の影響も考慮しておく必要があります。
2. 利率
親子ローンでよく問題になるのが、利率をいくらに設定するかです。
利率が高すぎても低すぎても、日本側およびタイ側で移転価格税制上の問題が生じる可能性があります。
貸手となる日本側では、移転価格事務運営指針において、国外関連者に対する貸付利率の考え方が示されています。一般的には、以下のような順番で検討されます。
- タイ子会社が、タイ現地の金融機関から借入を行う場合に想定される利率
- それが不明な場合、日本本社が日本で金融機関から借入を行う場合に想定される利率
- それも不明な場合、国債の利率
親子間だからといって、任意の利率を自由に設定してよいわけではありません。
実務上は、合理的に説明できる利率を設定しておくことが重要です。
3. 借入期間
契約書には、借入期間も記載します。
親子間のローンであれば、実務上は延長や早期返済について比較的柔軟に対応できる場合もあります。
ただし、契約書上は、いつからいつまでの借入なのかを明確にしておく必要があります。
期間が曖昧なままでは、監査や税務調査の際に説明が難しくなることがあります。
4. 利息にかかる源泉税
タイ子会社から日本親会社へ利息を支払う場合、タイ側で源泉税が発生します。
タイ・日本租税条約により、タイから日本への利息の支払いには、原則として15%の源泉税がかかります。
なお、金融機関への利息支払いの場合は10%となります。
ここで注意したいのは、源泉税をどちらが負担するのかという点です。
利息の支払額から源泉税を差し引いて日本親会社へ送金するのか、または源泉税をタイ子会社側が負担し、日本親会社には利息を満額で受け取らせるのか。
この点は、契約書に明記しておくべき事項です。
また、タイで差し引かれた源泉税は、日本側で外国税額控除の対象となる場合があります。
タイで支払った税金がそのまま払い捨てにならないよう、日本側での処理も確認しておく必要があります。
5. 印紙税
親子ローン契約書では、印紙税にも注意が必要です。
金銭消費貸借契約書は、借入額の0.05%の印紙税の対象となります。
ただし、印紙税額には上限があり、上限は1万バーツです。
通常は、貸手である日本側が負担することが一般的です。
しかし、タイでの税務調査において、タイ側でも印紙税の添付または納付を求められるケースがあります。
契約書の締結後は、所定の期限内に印紙税の処理を行う必要があります。
未対応のままにしておくと、税務調査で指摘され、罰則金が科される可能性もあります。
また、契約書の副本を作成する場合には、副本分の印紙税が必要となることもあります。
原本だけでなく、コピーを保管する場合の取り扱いにも注意が必要です。
まとめ
親子ローンは、タイ子会社にとって重要な資金調達手段のひとつです。
親会社からの借入であるため、社内では比較的簡単に考えられがちですが、実際には、監査、税務、銀行手続き、為替差損益、源泉税、印紙税など、確認すべき点が多くあります。
特に、契約書がない場合には、監査や税務調査で説明が難しくなるだけでなく、銀行で資金のリリースが保留される可能性もあります。
親子間の取引であっても、借入額、通貨、利率、期間、源泉税の負担、印紙税の処理などを明確にした契約書を作成しておくことが重要です。
