(初回掲載日:2026年8月26日;最終更新日:2026年10月5日)
*労働省は、洪水被害を受けた企業の負担軽減策として、労働者福祉基金の拠出金・積立金の徴収開始時期を約3か月延期する案を検討しています。現時点では決定事項ではなく、今後、内閣に提案され、2週間以内に決定される予定です。(労働大臣のインタビューによる)
タイの労働法制における重要な変更が迫っています。2026年10月1日から、「労働者福祉基金(Employee Welfare Fund)」の従業員積立金および雇用主拠出金の徴収が、労働者保護法 B.E. 2541(1998年)に基づき正式に開始されます。本制度は、雇用終了時に従業員の経済的なセーフティネットを確保することを目的としています。本記事では、対象となる企業、給与計算(Payroll)システムの準備、法令違反時のリスクなど、企業が押さえておくべき主要ポイントを分かりやすくまとめます。
労働者福祉基金への加入が必要な事業者
原則として、以下の条件に該当する事業所は、労働者福祉基金に加入し、所定の金額を納付する義務があります。
- 従業員を10名以上雇用している事業所
- プロビデント・ファンド(Provident Fund:PVD)を設けていない、または退職時の従業員支援制度を法令上の基準・条件に沿って整備していない事業所
| HR部門の留意点:会社にPVDがあっても、PVDに加入していない従業員や試用期間中の従業員については、法令の定めにより労働者福祉基金の対象となる点に注意が必要です。 |
従業員積立金・雇用主拠出金の料率
法令では、賃金に対する一定割合を従業員と雇用主がそれぞれ基金へ納付することとされており、企業が段階的に対応できるよう、徴収率は2段階で設定されています。
| 適用期間 | 従業員積立金 | 雇用主拠出金 | 合計納付率 |
| 第1段階:2026年10月1日〜2031年9月30日 | 賃金の0.25% | 賃金の0.25% | 0.50% |
| 第2段階:2031年10月1日以降 | 賃金の0.50% | 賃金の0.50% | 1.00% |
計算例(第1段階)
従業員の月額賃金が20,000バーツの場合:
- 従業員:積立金として0.25%を控除 = 50バーツ/月
- 雇用主:0.25%を拠出 = 50バーツ/月(人件費は従業員1名あたり月50バーツ増加)
基金の原資と従業員が受けられる給付
労働者福祉基金の原資は、従業員積立金と雇用主拠出金に加え、基金の運用収益から構成されます。基金は「労働者福祉基金委員会」と労働省労働保護福祉局(Department of Labour Protection and Welfare:DLPW)が管理し、労働省の基準に従って、国債や商業銀行預金など、安全性が高くリスクの低い資産で運用されます。
従業員が基金から給付を受ける主な条件は、以下のとおりです。
- 雇用終了:自己都合退職、解雇、契約満了など理由を問わず、雇用終了時に従業員積立金、雇用主拠出金および運用収益を受け取る権利があります。
- 退職(定年):退職後の生活保障として、積み立てられた金額を一括で受け取ります。
- 死亡:従業員積立金、雇用主拠出金および給付は、従業員が「สกล.5様式」で指定した受取人、または法定相続人に支払われます。
2026年10月1日までに企業が準備すべきチェックリスト
人事・会計上のミスを防ぐため、企業は部門横断で次の対応を進めておくことが重要です。
- 対象従業員の確認・区分(HR):全従業員数を確認し、PVD加入者と労働者福祉基金の対象者を明確に区分します。
- 給与計算システムの更新(Payroll & Accounting):給与計算ソフトを更新し、0.25%の従業員積立金・雇用主拠出金を正しく計算できるようにするとともに、納付処理に対応できる仕組みを整備します。
- 人件費予算の策定(Finance):雇用主拠出金による追加コストを事前に試算し、年間予算に反映します。
- 社内コミュニケーション(Internal Communication):積立金が給与から控除される理由や、従業員が受けられる給付内容を説明し、制度への理解を促します。
- 政府発表・様式の確認(Compliance):登録手続、提出様式、納付方法など、当局から公表される最新の運用情報を継続的に確認します。
1. 登録方法
- オンライン:労働保護福祉局(DLPW)の電子サービス(e-Services)から登録します。13桁の法人登録番号/納税者番号を入力し、権限を付与された担当者のパスワード設定、本人確認を行ったうえで手続を進めます。
- 窓口:バンコク都労働保護福祉事務所(地域1〜10)、または事業所所在地を管轄する県労働保護福祉事務所で申請します。
2. 主な様式
- สกล.(ソ・コー・ロー)3様式:加入義務のある事業所が、従業員氏名およびその他の必要事項を届け出るための一覧表
- สกล.(ソ・コー・ロー)3/1様式:加入義務のない事業所が、希望により従業員を基金へ加入させる場合の従業員一覧表
- สกล.(ソ・コー・ロー)3/2様式:従業員一覧表の変更または訂正を届け出るための様式
- สกล.(ソ・コー・ロー)5様式:従業員が死亡した場合に、労働者福祉基金からの受取人を指定する書面
3. 従業員積立金・雇用主拠出金の納付方法
雇用主は、従業員積立金を給与から控除した月の翌月15日までに、従業員積立金と雇用主拠出金を基金へ納付する必要があります。納付は、労働保護福祉局が指定する以下の方法で行います。
1. オンライン(e-Service):労働保護福祉局のe-Serviceに設けられた労働者福祉基金向けサービスを利用します。同局は事業者向けシステムのほか、e-Serviceの利用マニュアルや動画も公開しています。
2. 窓口:バンコク都労働保護福祉事務所、または事業所所在地を管轄する県労働保護福祉事務所で手続します。
法令を遵守しない場合のペナルティ
雇用主が従業員積立金または雇用主拠出金を納付しない、あるいは法定期限までに全額を納付しない場合、以下の負担・措置の対象となります。
- 未納の従業員積立金または雇用主拠出金に対し、月5%の加算金を支払う必要があります。
- 行政命令・法的手続:労働監督官は、雇用主に対して30日以内に適正な支払を行うよう書面で通知する権限を有します。これに従わない場合、労働法に基づく刑事手続や罰金の対象となる可能性があります。
まとめ
2026年10月1日に開始される労働者福祉基金は、企業にとって新たな法令対応とコスト負担を伴う制度です。一方、HR・Payroll・Finance・Complianceが早い段階から準備を進めることで、法的リスクを抑え、予算への影響を平準化し、従業員の福利厚生に継続的に取り組む企業としての姿勢を示すことにもつながります。
参考資料
1. 労働者保護法 B.E. 2541(1998年)およびその改正(第13章 労働者福祉基金、第126条〜第138条)
2. 労働者福祉基金の従業員積立金および雇用主拠出金の徴収開始時期を定める勅令 B.E. 2567(2024年)
3. タイ労働省 労働保護福祉局(DLPW)の告示および運用ガイドライン
よくある質問
質問1
質問:
代表取締役/株主は、従業員福祉基金(Employee Welfare Fund)に加入する必要がありますか。
回答1:
代表取締役/株主が経営者として会社の業務全般について意思決定権を有し、独立して業務を行っており、勤務日や勤務時間が明確に定められておらず、会社の指揮命令下にない場合は、「従業員」には該当しないため、従業員福祉基金への加入は必要ありません。
回答2:
代表取締役/株主が独立して業務を行うことができず、会社の指揮命令下で業務を行っている場合は、「従業員」に該当するため、従業員福祉基金への加入が必要です。
質問2
質問:
雇用主が従業員に退職金(解雇補償金)を支払った後、60歳を超えた従業員を再雇用した場合、従業員福祉基金への加入が必要ですか。
回答1:
従業員として雇用する場合、たとえ1年ごとの有期雇用契約であっても、従業員福祉基金の対象となり、加入が必要です。
回答2:
従業員としてではなく、独立したコンサルタントとして契約し、勤務日や勤務時間を明確に定めず、会社の就業規則・社内規定等の適用を受けない場合は、「従業員」には該当しないため、従業員福祉基金への加入は必要ありません。
質問3
質問:
会社にプロビデントファンド(Provident Fund)があるものの、一部の従業員がプロビデントファンドに加入していない場合、その従業員は従業員福祉基金に加入する必要がありますか。
回答:
雇用主は、プロビデントファンドに加入していない従業員についても、従業員福祉基金の加入対象とする必要があります。
これは、法律の趣旨として、従業員が退職した際に、いずれかの基金から貯蓄を受け取れるようにすることを目的としているためです。
従業員本人がプロビデントファンドへの加入を希望しない場合であっても、または会社の規定により一定の条件を満たさない従業員の加入を認めていない場合であっても、この取り扱いは変わりません。
質問4
質問:
会社が「試用期間中はプロビデントファンドに加入できない」と定めている場合、試用期間中の従業員は従業員福祉基金に加入する必要がありますか。
回答:
試用期間中は、従業員福祉基金への加入対象となります。
ただし、試用期間終了後、従業員が希望してプロビデントファンドに加入した場合、雇用主は労働監督官にその旨を届け出ることにより、従業員福祉基金への積立金および拠出金の支払いを停止することができます。
なお、それまでに積み立てた金額および拠出された金額を直ちに受け取ることができるわけではなく、退職時にしか受け取れません。
質問5
質問:
会社がプロビデントファンドを設置し、全従業員をプロビデントファンドに加入させている場合、一部の従業員が追加で従業員福祉基金にも加入することはできますか。
回答:
可能です。ただし、この場合は雇用主の同意が必要です。
また、雇用主は、従業員福祉基金に関する法律の適用対象となる事業者と同様に、同法に基づく義務を負うことになります。
質問6
質問:
雇用主が従業員に報奨金、福利厚生またはインセンティブとして支払う金銭についても、従業員福祉基金への拠出額を計算する必要がありますか。
回答:
福利厚生、報奨またはインセンティブとして支払われる金銭は、通常の勤務に対する対価として支払われるものではないため、労働者保護法上の「賃金」には該当しません。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- ボーナス
- 皆勤手当・精勤手当
- 住宅手当
- 交通費
- 売上目標達成時のインセンティブ
- 深夜勤務手当
- 役員の自動車リース料 など
なお、「賃金」に該当するかどうかについては、裁判所の判例等を確認することが重要です。金銭の名称だけで判断するべきではありません。同じ名称の手当であっても、その支給条件や実態によって取り扱いが異なる場合があります。
質問7
質問:
時間外勤務手当、休日勤務手当および休日の時間外勤務手当についても、従業員福祉基金への拠出額を計算する必要がありますか。
回答:
時間外勤務手当、休日勤務手当および休日の時間外勤務手当は、通常の勤務時間における労働の対価として支払われるものではないため、労働者保護法上の「賃金」には該当しません。
そのため、これらの金額を従業員福祉基金への拠出額の計算に含める必要はありません。
質問8
質問:
従業員福祉基金への積立金および拠出金について、最低額または上限額はありますか。
回答:
最低額および上限額はありません。
したがって、従業員がどれだけ高い賃金を受け取っている場合であっても、その賃金額を基準として従業員福祉基金への拠出額を計算する必要があります。
質問9
質問:
従業員が120日間の産前産後休暇を取得し、雇用主がそのうち60日分の賃金を支払う場合、60日を超える休暇期間についても従業員福祉基金への拠出が必要ですか。
回答:
雇用主が産前産後休暇中の60日分の賃金を支払った後、60日を超える休暇期間について従業員に賃金を受け取る権利がない場合、その期間について基金への拠出額を計算するための賃金は発生しません。
したがって、雇用主は当該期間について従業員福祉基金への拠出を行う必要はありません。
質問10
質問:
試用期間を終了できず、雇用契約を解除された従業員は、従業員福祉基金から積立金および拠出金を受け取ることができますか。
回答:
従業員が退職する場合、その理由を問わず、基金からの給付を申請することができます。
例えば、以下の場合が含まれます。
- 自己都合退職
- 定年退職
- 重大な過失の有無を問わず解雇された場合
- 試用期間を終了できなかった場合
- 雇用契約が終了した場合
- 退職支援プログラム等に基づき合意退職した場合
従業員は、雇用主が基金への拠出を行っている地域の労働福祉・保護局に給付を申請することができます。
労働監督官が提出された証拠および資料を確認し、要件を満たしていることが確認された場合、当局は法律に基づき、積立金、雇用主の拠出金およびその運用益を従業員または法律上の受給権者に支給します。
質問11
質問:
従業員自身が積み立てた金額を、個人所得税の所得控除に利用することはできますか。
回答:
現時点では、従業員自身が積み立てた金額を個人所得税の所得控除として利用することはできません。
ただし、労働福祉・保護局は、従業員による積立金について、所得税計算上の所得控除または非課税措置の対象とするための法改正を検討するよう財務省に提案しています。
今後の関連する発表・法改正については、引き続き確認する必要があります。
質問12
質問:
転職した場合、積み立てた分を基金に残しておくことはできますか?
回答:
はい、可能です。
質問13
質問:
従業員が退職した場合、労働者福祉基金から給付金を受け取るためには、どのような手続きを行う必要がありますか?
回答:
従業員は、労働保護福祉局のウェブサイト上のEWFUNDまたはEWFシステムを通じて、「สกล.6」様式(ソーコーロー6号様式)を用いて、自ら労働者福祉基金への給付金申請を行うことができます。システムへのログインについては、THAIDアプリケーションを通じた登録・本人確認を選択するか、EWFUNDまたはEWFシステムを通じた通常の方法での登録を選択することができ、いずれもシステムが定める手順に従って行います。
質問14
質問:
従業員は、退職時に労働者福祉基金から給付金を受け取るために、何回以上積立金を納付している必要がありますか?
回答:
1998年労働者保護法では、従業員が労働者福祉基金から給付金を受け取る権利を得るために、あらかじめ納付しなければならない積立金の期間または回数について、最低限の要件を定めていません。
したがって、従業員が退職した場合は、積立金を何回納付していたかにかかわらず、すべてのケースにおいて、法律で定められた基準および条件に従い、労働者福祉基金から積立金、拠出金および運用益の受け取りを申請することができます。
質問15
質問:
外国人従業員が雇用終了により帰国する場合、他の人に委任して労働者福祉基金からの給付金の受け取りを申請することはできますか?
回答:
はい、他の人に委任して、労働者福祉基金からの給付金の受け取りを申請することができます。ただし、労働者福祉・保護局が定める基準に従い、委任状および必要書類を準備する必要があります。
質問16
質問:
以前の会社を退職して新しい会社で働く場合、労働者福祉基金から給付金を受け取ることはできますか?
回答:
はい、以前の雇用主のもとで勤務していた期間に対応する労働者福祉基金の給付金を受け取ることができます。退職は雇用の終了に該当するため、従業員は自身の権利に基づき、積立金、拠出金および運用益の受け取りを申請することができます。ただし、給付金の支払いまでに要する期間は、基金が定める基準および手続きに従います。
新しい会社で勤務する場合、その会社が基金への加入対象となる場合は、新しい雇用主が従業員を基金の加入者として登録し、法律に基づき積立金および拠出金を納付する義務を負います。
質問17
質問:
従業員は、引き続き勤務しながら、労働者福祉基金から脱退することはできますか??
回答:
原則として、従業員としての身分を維持したまま、本人の意思だけで基金から脱退することはできません。引き続き基金への加入が義務付けられる条件に該当する場合、雇用主は法律に基づき、積立金および拠出金を納付する義務を負います。
基金の加入資格または基金に関する権利が終了するのは、雇用が終了した場合、または法律および所定の基準に従い、従業員がプロビデントファンド(Provident Fund)に加入した場合などです。
質問18
質問:
従業員または受給権者が、給付金の支給決定後も受け取りに来ない場合、どうなりますか?
回答:
従業員または受給権者が、基金からの給付金の支給決定を受けた後も受け取りに来ない場合、担当者は受給権者に対し、少なくとも年2回、通知を行います。
受給権者が10年以上にわたり給付金を受け取らない場合、法律で定められた基準に従い、その金額が基金の収入として取り扱われる場合があります。
ただし、その後も受給権者は給付金の受け取りを申請することができます。その場合は、定められた基準および条件に従う必要があります。
こちらもどうぞ
関連記事
【タイ社会保険:2026年からの新制度について】
【タイの労災保険とは?社会保険との違いと確認ポイント】
【タイで従業員を解雇する場合の補償金|勤続年数別の支給日数】
【災害で会計帳簿や証憑書類が紛失・損傷した場合の対応方法】
タイの会計・税務・給与計算でお困りの方へ
M&A Accounting and Taxでは、タイで事業を行う日系企業向けに、会計・税務・給与計算・社会保険関連のサポートを行っています。 実務上の確認やご相談がありましたら、お問い合わせください。
お問い合わせはこちら: https://mandaactg.com/
最新のニュースやタイの会計・税務に関するお役立ち情報を随時発信しています。
ぜひ弊社のX(旧Twitter)をフォローして、最新情報をチェックしてください。
👉 X(旧Twitter):@maat_th_jp
